前書き

コンニチハ、雛是空伊織と申すものです。
このたびは草薙ぷっか様のバックアップの下こうしてお送りすることが出来ました。
初めに其の事について寛大なぷっか様に大感謝を。
この小説Colorsは、自身のHP〈AQUA−ARUTA〉においてお送りしていた物の改訂版です。
現在、自分はNEWZEALANDという過酷な環境下に居まして、HP自体もいじれない始末。
現在書いているこの文章も、人のPCを借りて書いているという始末だったりしています。
イヤー英語って難しい。って、いや、いや、いや。
前前から、ぷっか様には設定イラストを頼んでいて、そちらの方しか進んでいなかったのですが、
こうして書くことができ、かなり自分としてはスッキリしています。(PC提供の友人よ感謝!)
はっきりいって尊敬する作家様の書き方に、ものすごーく似てきてしまっていたりするのです。
が、楽しんでいただければ幸いです。
これからも話は増えていきます。きつかったり、ほんわかだったり。
いろいろしますが、暖かな目で見守っていただければ幸いです。

雛是空伊織


































「α値上昇中、β値、依然平衡値を保っています」

無機質な声が無機質な空間に響いた。
それに答えるように声が打たれる。

「RBリズムはどうだ?」
「更新率70%をオーバー更に上昇中」

無機質な声は仲間と寄り添うようにその音を広げ、面白みの無い旋律を紡いでいく。

「目標R、シグナル弱まっています」
「α値250を突破」
「Rロジック、Wへと移行開始」
「BT96%、97%、98%」
「目標R、ステージを4へ移行」
「目標Rに同行者を確認。以後目標Hへと固定」
「シグナル確認指数、70%まで移行させています」
「M-Cの起動を確認」
「R、ステージ5へ移行」
「BT100%へ到達」



「痛々しいものだな…」

紡ぎあげられる旋律に、愁いを帯びた声が割り込む。

「此処まで良くとは、正直無理だと思っていたのだが…」
「何か問題でも?」
愁いは間を置いて答えを返す。
「問題など、あるはずも無い」
「だがあなたは心を痛めている」
「我等の目する者は、うまく行っているのだ。悲しみなど要らぬ筈」
「解っているさ、だが、だからこそ痛むのだよ」
愁いは、沈むような声で言った。

「何を考えている」
「同情、でしょうか?」
「何も」
「なら…」
「我等の目する者は物と成りつつある、ということだよ」
「それは問題ないはずだ」
「ええ、其は何を思うか、これが重要なのです」
「思う者は、物だろう。物は考えもしない。そこの者達以上に」
「其れは正論です。ですが、物になろうと思うことは出来るのでは?」
愁いが返す。
「そうかも知れないな。目する者は、物に成った所で思うかもしれない」
「心像で図るものではない。これは必然だ」
「其は意思を持ち、思うでしょう。必然的に」


愁いにかけられる言葉は必然的に、同じ答えへと愁いを導いた。

それぞれの声は言葉を紡ぐ。
其れは何かに捕らわれたような旋律であり、同時に静かな闇を持つように感じられる。
愁いは前奏者達の顔を見るとため息が出た。
彼らは愁いを一瞥し、すでに無機質な声へと指示を出している。
人間的モノは無いのだろうか――ふと思われてしまう。
憂いは前奏者達に一言言うと、席を立ちこの無機質の空間から出ようと、鋼の扉へと向かった。
鋼の扉は抵抗もなく開き、無機質からの脱出を可能とする。
愁いは扉へと進むと同時に、静かに、だが優雅に。
何人にも聞かれぬよう言葉を流した。

「其に求めるものは多く、其れを望むものもまた多い。
だが彼女はもたないだろう、人が星に引かれるように。其れこそ必然的に」

その顔は先ほどと同じ愁いが残っている。
愁いと共に、物寂しげなものも感じさせた。

「彼女はもつのだろうか、人々の望むものへと近づくまでに」

全てのものが願う其の希望に、彼女はあまりにも幼い。
「彼女は知れるのか、人々の持つ数多の希望を」



――慟哭が聞こえる、人々の希望の慟哭が――






















C o l o r s

CHAPTER1:GUN FIRE STARTER





























−1−





“彼女は持つのだろうか”

そんな迷いとも取れる言葉が私の脳裏をよぎっていく。
そもそも気づくのが遅すぎたのだ。
自身の能力が、役職が。今更になって猛烈に情けなく感じてくる。

知られた事実は彼女を畏怖し、拒み。
起きた力は彼女にとどまらず、周囲も巻き込み、取り込もうとする。
二つのどうしようもない過去は、私達に怨霊の如く付き纏い、
その恨みを果たそうと刃を輝かせる。


今、この時。
している事もその怨霊から逃れられるのか。
不意にこの行動を止めてしまおうかとも思う。
そうすれば、いや、そうしたところで元の暮らしを手に入れ、得られるのだろうか。

答えは否だろう。

ならば、こうするしかない。
思考は同じ場所を回るのみで、解決策は見つからない。
過去にこうしておけば、彼女を救ってやれられれば。
反吐が出そうだ、嫌になる。
遅すぎる過去を治せはしまいかと悩む私の脳髄が。
其れよりも考えるべきことは山積みなのに。



「大丈夫?」


不意に声が私の耳を撫でた。
私が手を引く少女が発したものだった。
今彼女の手を引く私の手は強く握られて、その手を引く速度も速くなっている。

なのに、この娘は。
嫌な顔見せず。
私を心配して。
反吐が出るはずの思考は周り、自信への憎みが頭に残る。

だめだ。
どうしようもなく続く思考の連鎖を無理にでも閉じ込める。
今すべきことに全力を向けよう。


「大丈夫ですよ」


私は心配ない、そういう作り笑いをして彼女に見せてやった。
それに安堵したように、彼女も笑顔を返す。
無理の無い自然な笑顔だった。

「もう少しです、後もう少し」

そう言っておく。
静かに胸が痛むのが解った。
実際は行く当てなんて見つからないし、大体、今進んでいるこの通路さえも私には解らない。
ただ突発的な行動を起こしただけ。
それだけなのだ。



“それだけなら、しなければよかったのにね”



不意に響いた声に、私は走る足が止まる。
連れられた彼女はその急な行動に反応できず、私の背にぶつかった。
衝撃で彼女の身体はよろけ、通路に尻餅を搗いてしまう。
私は彼女の状況も解ってはいたが、助け起こすという動作より洗練された、自身の守護行動が先行されてしまった。
後ろ腰のホルスターから愛用の黒い自動拳銃を引き抜く。
その様子を見て、彼女も私に何が起こったのか、解った様子だった。
彼女の右手がすがりつくように私の左手を抱く。

“君だったとは。其の力場を探していたんだ”

声が、よく知った声が頭に響いてくる。
気づかれるとは思っていた。
これでも遅い方だろう。
とりあえず、今後の選択肢はひとつ消えた。

『後戻りは出来ない』
覚悟を決めた声を私は荒げた。


「彼女を貴方達の求める者にはさせない!」


私と彼女、二人だけの通路に声が響いた。
返答はすぐ返ってくる。

“うん、そうだろうね。君はいつかこうなるだろうと思っていたよ”

冷静に返された言葉は、冷たく旋律を紡ぎ始めていた。

“もう少し待てるかと思ったんだけどなあ、君は。
君の実行力が他より強かったということかな?
其の力はこんな事では使って欲しくなかったのだけどなぁ”

「何が言いたい!?」
冷たい旋律に私の恐れと怒りが反応する。

“うん、それだよ。
僕も反乱者なんかとは話すつもりなど無かったのだけど、不思議とこうしている”

冷たい旋律は迷いとも悩みとも読める言い方をする。

“裏切ったのだから[機兵]で済ませればいいのだけれどね。
僕にもまだ迷いなんて物が有るのかも知れない。
君は…、君にいて欲しいという願いがあるから”
「無理な相談だな、何故私が此処に居るのか、考えれば解るだろう?」

間を置いて答えは返された。
“うん、それは承知済みだよ。流石に僕も三流ドラマの真似事はゴメンだ”


不意に私の感覚が震えた。
背後、そして前方からも何かしらの”気配”を感じる。
反射的に彼女を引き寄せ、私は抱えるようにして守る。

“一応、最後の警告だね。それをしてみたかったのかも知れないなぁ、僕”

声は小さく自嘲を混めた笑いを起こした。
癇に障る笑いだったが、かまってはいられない。


「ご親切にどうも」


皮肉れた返事を返すと、銃をスライドさせ、薬室に第一弾を装填する。

“とりあえず、『機兵』からは逃げられないと思うよ。
ま、全て退けるってことも君なら出来るかも知れないけど”
「やって見せるさ」
“ふふ、そう言うと思ったよ。”タマシイ”になれば頼りに来ればいいさ、彼女付きで”

そう言うと旋律は其の影を潜め、代わりの”影”が姿を現した。
“彼ら”が上級兵士として使う『哭式機兵』の禍禍しいシルエットが眼前に浮かび上がる。
『哭式機兵』は其の身を機械の身体に投じた兵士のことで、
少なくとも一体でこなせる仕事は通常兵士の百倍とも言える。
そうすると、私の目の前には化け物が居ることになる。

「やって見せる、やって見せるさ」

自分に言い聞かすように言葉を紡いだ。
化け物は其の距離を一歩、また一歩と縮めていく。

「やって見せる、やって見せる」
自己暗示のように、何度も、何度も。
私に抱えられた彼女はすがるような視線を私に送っていた。
それを笑顔で返す。
選択肢は決まっていた。

「やって見せる、やってやる」

そうすることで、彼女を守り抜く。
絶対。   ぜったい。
彼女は道具ではないのだから。


銃声が通路に響いた。
何度も、何度も。
少女の慟哭が聞こえた。
一度だけ、獣のような慟哭が。














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