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夢を見る。
始まりは笑い声。
終りは悲鳴。
長く、長く、虚無の夜を埋め続ける。
余りにも長く続くその夢は、私の闇に小さな傷を付けた。
それは、私自身すら気付かぬほどの小さな傷。
それに気付いた時。
長く、長く、廻り続ける夢は、何かに気付いたように。
何かを求めるように。
その姿を、変えた。
始まりは、悲鳴。
終りは、笑い声。
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CHAPTER2:BEAUTIFUL DREAM
−0−
男がいた。
片手に物騒な物を持ち、立っていた。
男の周りには二人の男が居た。
一人は隣で硝子越しに外をうかがい、もう一人は暗い顔をし部屋の角にうずくまって、ぶつぶつと呟きながら。
男は片手に持っていた小型の短機関銃を見て、少し躊躇いながらも、その安全装置を解除した。
その指は、かすかに震えていた。
震えを自覚していた男は、それを壁に打ち付け、無理にでも治めようとした。
鈍い音が空間に響いた。
が、その姿は蒸気のように脆く、かき消されてしまう。
男の周りを音速で飛び交う銃声に。
「くそっ」
男が悪態をついた。
「進入口がまだあったみたいだな」
隣の男がそう言った。
「依頼主め、ガセネタを教えやがったのか!?」
男の口調が大きくなった。
うずくまっていた男が男の大声に驚いたのか、びくりと体を動かし、顔を男に向ける。
その目には何も捕らえられていないように、男は思った。
「落ち着け、“触”れたらどうする?」
その言葉に理性を戻した男だが、悪態はおさまらない。小声で隣に言った。
「あいつも使えねえじゃねえか、一人殺しやがった」
「問題は過去じゃないだろう、今の状況だ」
確かにその通りではある。
「どうなってんだ一体」
「爆音がしてDのジエンからの連絡が途絶えた。二分後にJのライ、Kのクラウ」
「殺られたのか?」
「だろうな、どちみち確認のしようも無い」
男の肩に付けている無線からは絶えず銃声が聞こえた。
隣の男も銃を見て、安全装置を外した。
「ここもあれだ、逃げ道が無い」
男が返した。
「出るのか」
「それしかないだろう?人質を取りに行って、反発した警邏の所為だ。殺しちまう」
「あいつは?」
そう言って男は隣に角でうずくまっている男を示した。
「連れて行く。他に方法も無いしな」
「奴はいらねえだろ」
隣の男が男の発言を珍しい事を聞いたような感じでその先をうながす。
男は答えた。
「さっきも言った。ありゃ俺等にはでかすぎる。連れていってもその後の始末が出来るとは思えねえよ」
「銃なんかで始末しようとすりゃあな」
「だから…」
「持ちつけ、今の状況を思い出せよ。ここから逃げる事が最優先だろ?それには奴の力は必用だ」
隣の声は、妙に静かに、男の耳に響いた。
「………」
「無事逃げ出した後に、薬でも使って静かに逝かせてやりゃあいい」
「……だが」
男の脳からはどうしても離れない。このうずくまって何かうわごとの様に呟いている男が何を“した”かが。
余りにも、男にとっては余りにも危険な物に思えるのだ、コレは。
どうやったって、唯の人間である男になんて始末の付けようが無い。
正直ここに置いていき、忘れてしまいたい気もする。
だが、隣の男が言った事は何処までも正しく、今は必用な事だった。
「先の事より、今の事を考えるんだな」
隣が言った。
「……」
「あれこれ言ってるうちにロイも逝っちまった」
男は無線に耳を傾けながら言う。
その顔には悲痛の表情は無く、むしろ楽しんでいるようにも思えるものがあった。
だが確かに、こいつのいう通りだ、そう男は思った。
今しなければいけない事は、先を気にする事でも、過去を気にする事でもない。
今、ここから逃げる。それだけだ。
死んでしまった仲間には悪いが、男は死にたくはなく、死ぬ気にもなれない。
生きて逃げさせてもらうのだ、ここから。
「分かった、行こう」
そう言うと、隣はニヤリと笑い、うずくまる男に足を向ける。
「お前は人質のとこで先にやる事済ませてこいや」
「お前はどうする」
「俺はこいつを引き受けるさ。何、後で行く。時間は掛からない、すぐ行く」
「わかった」
男は扉から身を出し、左右に向けて銃を構えた。
ここから人質を押し込めている部屋はそう離れていない。
男は確認が済むとその部屋のある右の通路に小走りに消えていった。
部屋に残った男はそれを見届けると、自分の目の前にうずくまる子供のような男に、言った。
「さて、どうする?」
「………???…?…」
「どうするんだ?」
「……………………??????????」
うずくまった男はもう一人、自分を見下げている男に視線を向ける。
「皆がお前を憎んでいるぞ」
「みん…・ナ……?」
うずくまった男は口を開き、それをみて男の口元も緩んだ。
「皆がお前を嫌っているぞ」
「……にく…・ム。………キ…らう…」
「皆が、お前を殺しに来るぞ」
緩んだ口元は、凶悪な笑みに形を変えていく。
「……皆…が…?…」
「嗚呼、そうさ。みーんな、お前を殺したがってる」
その笑みのまま、男は子供に諭すように言った。
「………こ…子…殺し……たが…たが、たがってる?!?」
うずくまっていた男が顔を上げた。その表情には恐怖が写る。
(巧く、逝った)
目の前に立っている男は、その様子を楽しむかのように笑う。
「そうさ、どうする?恐いよなあ?どうすりゃいい?どうすりゃお前は怖がらなくて済む?」
男は笑いながら言う。
「………どうする……?…!…!??……??…」
「そうだ、どうする?」
ただ笑いながら、男は言う。
「ころ…殺され……ル…なら……」
「なら?」
「コ、こ,ころ……殺すウウuuうウウウ!うう!うう!!!!!!!!!!!!!!」
子供のような男の絶叫が広がる。静かに。それを男はただ見ていた。
凶悪な笑みで。
そして言った。
「じゃ、そうするか。アルク」
アルク、そう呼ばれた男はゆらりと立ちあがる。
その目には何者にも出せない狂気が映っていた。
「今日は何人、殺しに来るかなあ?」
楽しそうに、男は言った。
その言葉を、返す者はいない。
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