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エレベルタを降りた俺達は壁に沿う換気作業用(との情報だが、その割には器材は見当たらないし、通路はしっかりしてその幅も広い)の通路を通り、ようやく舞台の袖に入った。
取り敢えず、先を行くソウシが状況を確認。
周りに誰もいないのを確かめると、右手で「降りろ」と指示を出す。
それに従うのはなんか釈然としないが、仕事だから仕方ない。
通路から降りると、白のペイントで揃えられた病院のような通路だった。
なかなか幅があり、床の真ん中に赤い線が書かれている。
そう言えばエイポートは化学薬品や薬剤を扱う企業だったか。
降りてきた所を見れば奇麗な四角が空いている。

「換気作業用、ね。秘密通路が、こんな企業に要るのかよ?」

俺が壁を叩きながら言うと、

「お前には人質と同じ、口を閉じるテープが要るな」

なんてソウシが返してくる。

「やらしい器具じゃないだけマシだけど、嫌だね、それ」
「なら黙れ」
「へいへい」

無駄口は確かに要らない、というかそれが命取りになることだってこの仕事にはある。
が、あえてそれを無視する俺の頭脳は、自覚しないうちに危険を求めているのかもしれない。
死ぬのは御免だが。
頭では馬鹿な事を考えながらも、俺達は先へと進み始めた。
常に先頭に立つのは決まっていないので、角ごとにその役目を交代し、進む。
例えば今、先に進む俺が角につけば、UGの付属CCGカメラでこっそりと覗き敵の有無を確認。
見られないのでソウシに空いている左手で「クリア」続けて、「進め」と指示してやる。
それを読んだソウシは、短機関銃を両手で構えながら再度確認、進んでいく。
俺はその後を追うように背後の確認をし、続く。
次にソウシが先頭につき、角まで先導。

ソウシの場合は俺のようなCCG等を使おうとしないので自身の大業物、”蓁鬼楼しんきろう”の透き通る刀身で通路先をチェック。
クリアを確認すると俺と同じように指示をだし、それにしたがって俺が進む。
UGのモニター上のMAPで位置を確認し、警邏が突入した地点を避けるように進んでいく。
部屋はコンクリートに固め足れた密閉空間、通路も多くあったが、それと同じくらいに硝子通路と区切られた研究室のような部屋も多くみられた。
なんでまたこんな所を襲ったのだろうと、今更犯人達にあきれる。
金ならこんな所よりも他の企業のほうが数段盗みやすいだろうに。
その面倒な作業を続けた先の、待ち望む変化は三回目のソウシの確認時にあった。
サインは「停止。通路上に敵あり。数は二」。
確認役を交代し、独立CCGを角に固定。
状況を常に俺のUGで確認出来るようする。
通路上に果たしかに二人。
その間にソウシは俺の要る反対方向に隙をうかがって移り、その先の通路をチェック。
サインはクリア。
MAPを確認すれば、この先は部屋へ通じるドアが一つ有るのみだ。

おお、ラッキーかもしれない。

通信デバイスを起動させ、押し殺した声で、俺はソウシに言う。

「あいつらから聞き出そう」
『麻酔か?』
「馬鹿か。そんなんじゃ時間かかるだろ。煙幕弾頭、音光手榴も用意」

俺の言葉にソウシが顔をしかめながら無言の体内通信で返してくる。

『ここまでしてきた行為を貴様は何というのか知っているか?』
「隠密行動だろ?つべこべ言わずにさっさとしろよ、案は有る」

ソウシはかなり不服そうに顔をしかめたが、しぶしぶ言われたグレネード式の銃弾をセット。
手榴弾は俺に渡してくる。
それを受け取る前に固定CCGを二個、来た方向と、この先に向けてセットし、手榴弾を受け取る。
それを腰に下げながら、スタンバイ状態のUGを起動。
目線で次々に項目を選び行きついた先は「画像送信」という項目。
先ほどセットした三つのCCGの配信映像を変換。
オープンラインにほうり込み、接続、完了。
そのまま残り二つの画像ウィンドウを立ち上げ縮小。
角に配置設定。
ついでにアドレスを吸い出す。
通信オブジェクトから映像転送を開き接続。
繋いでいるソウシに先ほどのCCGのアドレスをセット。
送り付ける。

「送る動画項目を何時でも見られるように設定しておけ」
『これが貴様の案か』

送られたアドレスに反応してか、どうやら気付いたみたい。
偉いねソウシ君。
肯定の笑みをして、俺は「行動開始」のサインを出す。
舞台の幕を開ける時間だ。
ため息と、音の無い飛び出しと共に、ソウシは煙幕弾頭のグレネードを続けて二発、発砲。
二つの弾頭は低い弧を描きながら飛翔、着弾、そして低い轟音。
すぐさま俺はその中に入り、UGに映るサーモグラフィー映像で敵の位置を特定。
足に向けて情け無しの貫通弾を発砲。
見事着弾。
んでもって男の悲鳴と照準の合わない短機関銃の銃声。
短機関銃の弾丸の赤き軌跡をあさっての方向に見ながら、悠然としたスピードで俺は進む。
街の公園を散歩しに来ました、とでも思わせるように。
そこに短機関銃の弾が割り込んできたのですばやく回避。
さすがにここまで馬鹿討ちされると当たるかもしれない。そんなヘマするつもりはないが。
とりあえず、痛みで暴れまわっている片方に無表情で二発。
銃声と、その被害者が俺の目に映る。
ここまで出来るようになった俺はもう人とは呼び難い。
人を感情無く撃ち殺せるなんて奴、常人ではいかれているとしか思えないはずだ。
そう、俺は常人ではない。
何より、そうあってはいけないだろう。
今は完全に小物しか居ないが、大物のwichともなればこうはいかない。
常人のイカれた連続殺人犯より強く、人族をゴミの様に扱うレイヴァルヴァ種と同等に腐った脳髄、時にはそいつらをも捕食する大型のジェルウルヴ(人狼)を相手にするよりはマシでは有るけど。
そいつらと殺り合うには普通の人間相手で苦戦や躊躇するような感覚は、あるだけ無駄であったりする。
人でなく、それを超えた者を相手にするには、唯人であってはいけないと言う事だ。
そうこう思考で遊んでいたら、暇もてあましていた馬鹿達はつられてやってきた。
常人ではない殺戮者の俺達が要る“ここ”に。

「銃声はここからか?!」
「野郎、いつのまに!?」

案の定、舞台に上がりたい目立ちたがり屋が来てくれたよ。
ソウシに通信では無く、そのままの声で言ってやる。

「もっかいだ、三流剣士!!」
「貴様は真性の馬鹿者だ!!」

声とともにソウシのグレネードが火を噴く。
続けて俺は鉛弾を冷静に、狙って発砲。
二人の目立ちたがり屋の完全急所の頭部に命中。
貫通弾なので痕は小さいが、そこからは考えられない量の血を撒き散らして卒倒する。

大騒ぎはまだ続く。

ソウシは倒れた賊からその短機関銃を奪うと、明後日の方向へ発砲。
自らの銃弾切れを防ぎながらも騒音を出す。
それに気付いたのか、奥の扉が大きく開かれるが、突入はない。
仕方ないので、というか、こうしてくれて助かるが、俺は持っていた音光手榴弾を開けられた扉へと投げ込み、二歩ほど下がる。
爆音、閃光、むなしい男達の叫び声。
嗚呼、戦場って非情だな、当たり前だが。

「め、目が、目がー」

とか、何処かで聞いた事のある台詞も聞こえたけど関係ない。
俺は右手の拳銃のマガジンを高速徹甲弾に交換、さらに腰から同系だが別色の拳銃を取りだし左手に構える。
そして下がった二歩を一歩の跳躍で進み、のた打ち回っていた三人の賊に跳躍しながらの半回転。
二挺の銃で徹甲弾の雨を食らわし、その場を静かにした。

「案外思い通りの行動をしてくれる人々だった」

非常な惨劇の後を背景にしながらぼけた声を俺が出していると、

「貴様、本格的に脳髄がいかれているのか?」

敵を片付けたソウシが俺の後ろから現れる。
返事が面倒だ等と思っていたら、俺が足を撃った内の一人が痛みをこらえながら、声を出した。

「て、手前ら、何者なんだ!?」

それを見ていい事を思い付いた俺は、ソウシに耳打ちして考えを伝えておく。
ソウシは敵の機関銃をいまだぶっ放しているが、その顔に反論の兆しは見えないので、了承と言う事だろう。
それを確認すると、俺は質問した奴に近づいて、笑顔でまだ動く方の足に発砲。
撃たれたかわいそうな男は聞くには絶える絶叫をはく。
俺はうるさいそれを聴きながら、聞かれた質問に答えた。




「悪者だよ」













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