−2−






男は人々の前に立つ。
それは自身を生かす為の行為であり、其の行為自体を男には悩む時間もない。
男の持つ短機関銃の銃弾は既に薬室に装填されて、その瞬間を今かと待ち望んでいる。
男の周りにいる人々は、男が部屋に入り足を進めるたびに、びくびくと震えている。
こんなものか。
これほど“弱い”なものか。
男は試しに、銃口を一人の女に向けた。
銃口が示す方向には、許しを請うような視線と自分の死を宣告された蒼白な顔が浮かんでいる。
体は小刻みに震え、歯は規則的な音をカチカチと奏でている。
男はさらにその隣に銃口を向ける。
銃口で指された男は髪の薄くなった頭を、銃弾の前では防御力も何もない細い両腕で抱えて震える。
さらにもう一人の頭に銃口を当てる。 当てられた男は醜い叫び声を一声上げて失禁する。
男は思った。

な・ん・だ・こ・の・ヨ・ワ・イ・い・き・も・の・は?

思ったと同時に笑いが漏れてしまった。
それは止められない。
止めたくは思わない。
止めたくない。
男が上に君臨する為に。
可笑しくて、おかしくて仕方がない。
腹を抱えて笑ってしまおう。
嗚呼、可笑しい!

「何がそんなに可笑しいんだ?」

いきなりの声に男は反応して、声に銃口を向ける。
向けた先に一人の男が静かに座っていた。
フード付のジャケットを着て、其のフードで顔の上半分を隠すようにしている。
ただ、暗く隠されたはずの目薄い光で浮かび上がり、其の眼差しは何者にも屈しない強い物だった。
男は問う。

「何がそんなにお前を笑わせるんだ?」

男は答える。

「こいつら、人間の弱さだ」

ふっと座った男は微笑を浮かべて問う。

「弱さが何故、可笑しい?」

男は銃口を座った男に当て、答える。

「一人しかいない俺を、この銃しか持たない俺をここまで恐れるんだ。これを笑わずにどうする?!」

男は自分が銃口を当てている男の表情を見て、顔をしかめた。
男は銃口の先で、笑っている。
最初に見せた微笑を浮かべ続けている。
そこで男は気付いた。
『コイツダ』、と。

引き金を絞られる前に身体を左へ動かし、自身の完全急所を弾丸の射線上からずらす。
それより一つずれて短機関銃の連なった銃声を耳の真横に聞きながらも行動を次に移す。
体を起こしながら横へと回転移動、左腰ホルスターから拳銃を一気に引きぬく、同時に安全装置も解除。
射線をずらした身体で立ち上がりながら右手に取った銃のミドルスライドを引き、第一弾を薬室へ。
発砲可能になった銃を賊の男のこめかみに当てるのと、扉の影に潜んでいたソウシが男の短機関銃の底面を取り、マガジンを外し、組み立てと逆の形で分解、銃の機能を奪うのはほぼ同時の出来事だった。
無力化した短機関銃を床に投げ捨てた乾いた音を聞きながら、ワンテンポ遅れてソウシも男に銃口を向ける。
銃を無力化された男は、何が起きたか理解出来ない状態で立ち尽くしていた。
俺は銃口をこめかみからずらしながら、男の正面に移動。
ソウシには銃を降ろさせ監視に当たらせる。
指示ついでに、囮を演じた俺としては、これは聞くべきと言う事を、この段取りを提案してきたソウシに聞く。

「俺が囮になる必要はあったのか?」
ソウシは銃を構え、入り口の方向を向きながら言う。

「意味は無いな」

この野郎、もしかすれば死ぬ可能性のある提案をしやがって。
まあ、可能性は低いけど。
しかし100%悪意のこもった提案を何故俺は受けてしまったのか、俺はこの仕事でおかしくなっているのか。
取敢えず、数分前と現在のソウシの腐れた脳天に鉛弾を速達してやりたい気分。
ホント、いつか殺してやる。
“いつか”が来ればいいなと思いながら俺はフードを取り男に向かう。

「お、お前ら―――」

ばがん!

「黙ってろ糞ボケ、今の俺は手前の話を聞いてやるほどの心の余裕がついさっき売り切れた所でな。
与太話なんかを聞く気はないんだよ!解かったら黙って今からいう事を聞きやがれ!!」

俺は右の銃は動かさず、左で右のホルスターから抜き取ったもう一方の銃で、男の足元に一発ぶち込んだ。
安全装置は解除、スライドも既に引いてあったので手間がかからずに打てて少しは気が晴れたかもしれない。
言った後左の銃も使って撃つ真似をしたらびびる。
ま、やり易くていいけど。

「これからお前を下へ連行する。俺の気に触る事をすれば殴る。
頭を使って逃げようとすれば腐った脳みそを吹き飛ばす。されたくなければ言う通りにしろ」

男は口を開かずに黙ったままだ。
俺は右の銃口で頭を小突く。
するとこいつは反抗の眼を向けてきやがった。
すかさず左拳で奴の顔をぶん殴っておく。

「わかったか?」

男は口から血反吐を吐いて黙り込む。
それでいいんだよ。
俺が奴を手なずけている間に、後衛とやり取りして敵殲滅を確認したソウシは人質の拘束を解除。
ぎゃーぎゃーと喚く人質たちに自分は救出部隊の一部だという事。
貴方達の安全は保証されているという事。
これから脱出地点まで移動するので離れず自分にしたがって欲しいと言う旨を事も無く説明し終えていやがった。
ソウシは横目で俺の手なずけが済むのを確認すると、サインで次の行動を指示してくる。
サインはこうだった。



−人質全員を保護、予定地点に移動せよ−



そして其の後に握り拳と立てた親指を地面に向けるサインで、「ばか野郎」とも指示してくれたので、俺は中指を立てて「ありがとう」と律義に返しておく。
それを見たソウシは鼻で笑い、それから人質に指示、自身を先頭として目的地点へと行動を開始。
俺は額に置いておいたUGを元のように眼前に下ろすと、その後に男を連れて目的の予定地点へと歩を進める。
始めに行われたブリーフィングで人質を下へ送る役目は警邏の範囲とされたので、その合流地点まで人質を連れて行くというのが、現在俺達に任された仕事であった。
表向きには警邏部隊が突入しており、人質を保護、実際救助した俺達は素粒子一つの存在も無かった、というのがナーガと警邏内で交わされた筋書きである。
今ごろは外部非常降路にいる警邏の突入班、救助用にその降路に張り付くように飛んでいるはずの警邏用バルーク(飛行機械。ヘリよりも安定性に優れる)が自分達の勇姿を報道カメラに映される時を待ち構えているはずだろう。
有名人になるつもりなどはないが、自分のした事を消されるというのも何か釈然としないものだ。
と、ソウシに言えば、奴は笑って“貴様がTVに移るなど、罪なき人々の眼を腐らせる気か?”とかいうのだろう。
想像できてしまう自分に乾杯。一刻も早くこの関係が無くなる事を望む。
ポイントに近づいた所で、うわさをすれば何とやら、俺のUGにソウシからの通信が届いた。

『腐れ銃士よ』

いきなりの暴言で会話が始まる俺達は人類でも希少種だろう。

「何だ、腐れ剣士?」
『遅すぎるとは思わないのか、貴様』
「なにが?」
『言われないと解からんか?』

おちょくってるんだよ。俺は言葉を返す。

「言われなくても解かるよ、俺達の居る意味が問われる質問だ、そりゃ」
『壁に残された跡は多々見たが、判断がつく肝心の死体はなかった』
「相手が火炎の氣爆師なら、完全に焼却されたとか?」
『そこまでの火力式を持つ奴が、“ノート”に載っていないはずが無い』
「まあ、そりゃそうだな」

“ノート”というのは全T.A.D.にTBTO(T.A.D.区格別認証総合組織)より与えられるwichのリストの事だ。
WichにはW=Cordという血液コードがどの証明書にも表記が義務づけられている。
それによりほぼ全員のデータがTBTOの査問士官に確認され、“ノート”に表記。
そうして現在存在するwichの個人データがすべて記録されるというわけだ。
大抵の者はここの中から確認を取る事が出来、便利この上ない物なのだが、その人物の個人情報を確認できないと照らしあわす事が出来ないという個人情報を扱う上での強固な使用規則があり、たまに俺達の足を引っ張る事もある。
今回は照らし合わせた相手がすべて白であり、単体個数、式情報などを特定できていない状態での、情報としては丸腰であった。

『今捕縛している者は?』

ソウシが適当に聞いてくる。
思っても無い事を人に聞くのはどうかと思うが、面倒なので普通に返しておく。

「皆無。コイツがwichなら、銃で脅して喜んだりしないだろ」
『生き残りはそいつだけだと?』
「常人の中では、そうだと思う」
『また思う、か?』

いちいちうるさい奴だ、他にどう答えられるっていうんだよ。

「………まぁどちらにしろ、ここまでくれば可能性は絞られるだろ?」
『潜んでいるか』
「逃げたか」





男には聞こえていた。
聞こえていたから、それに答えた。

「それは、有り得ないな」

通る声で、はっきりと答えた。





瞬間、大気が震える。



轟ッ!!!!

爆音と硝子の吹き飛ぶ音が周囲に広がり、辺りを支配する。
眼前を支配するのは結合を無理矢理解かれ吹き飛ぶ硝子刃。
それに倒れ、それをよけ、伏せ、うずくまる人々。
全てが一瞬だったのか、その一瞬が全てなのか、俺にはコマ送りの映像のようにぎこちなく映っている。
いや、映っていたのか?
そうじゃない、写っている?
今が後で先が今、後は現在で未来は過去を向く。
いや、そうじゃない。
そうではない。
だめだろうか。
いや!
いや、いや、いや!!
狂っている場合ではない!!!
瞬間に砕かれた神経をかき集めて、銃口を向け、躊躇わずに発砲。
開放された薬室からの高速徹甲弾は飛び散るガラスを砕きながら一点に向かい、到達。
弾丸が捕らえたものと、瞬間に俺がギリギリで眼球に捕らえた者は同じだった。
そいつは分厚い肩に弾丸を受け、一瞬仰け反り、ゆらりと持ち直し。
次にその腕に淡い緑光でwichが能力発動におこす印定式の文字を描く。
それを見て、一瞬にして狂った俺の頭脳はその熱を冷まし、それどころか絶対零度までに冷えていく。
糞っ垂れだ、コイツは!!

「飛べ!!」

言ったと同時に横だと思う方向に跳躍。
人質と賊の男の事も忘れ、兎に角、硝子片のない場所に逃げ込む。
刹那、閃光が走り、俺が先刻居た場所に五層の光が煌く。
光は身体を捉えられずに飛び散っている硝子片に到達、そのまま反射して次の硝子片に。
それが連なり、檻となり、刃となって通路を焼く死の光が背後に広がる。
何が起こっているのか分かっていない人質と男に、鋭く鋭利な光は無情に突き刺さる。
筋肉繊維を焼き切り、血を気化。頭蓋骨を破砕して脳を沸騰。
衣服に高圧電流が絡み付き、発火。
大の大人が一瞬にして消し炭に変わる。
糞っ垂れの警邏どもは、俺の中でのランクが即効犬の糞の次になった。
相手は火炎系wichの氣爆師などではない、光電量子を扱う電磁系wichの雷光師ではないか!!
面倒ごとは厄介ごとを通り超して、死神の鎌だった。
そいつを一歩の差で潜り抜けた俺は幸運なのか悪運なのかわからない。

「生きてるか!」
「死んでなかったか」

野郎は貴重な相棒の死を望むか、糞野郎。
避難していたソウシを確認して戦闘のサイン。
奴は使えなくなった短機関銃をすでに捨て、背負っていた大業物を装備していた。
恐らく”蓁鬼楼しんきろう”の刀身−超硬度のガルクルス合金で光電量子の光を反射させて逃れたのだろうと予測。
状況を外に知らせるために、UGで緊急事態を知らせるサインをオンラインで全チャンネルに送信。
その間にソウシは大口径の炸裂弾の弾奏を柄に装填し、臨戦態勢に移る。

「野郎、全員殺しやがった」
「貴様も同時に死ねば良かった。この先苦は無く済むぞ」
「優しい未来設計をどうも。だが俺の全細胞が、お前が死ねばこの先の俺の苦労が無くなっていい、と言っているのは空耳かな?」
「貴様の妄想は物理的にすべて無理だ。諦める事をお勧めするが?」
「嗚呼どうしてだろう、相棒の首に鎌っぽいものが見える」
「その前に見ていないだろうが、貴様」



「この状況で言葉遊びが出来るなんて、相当根性悪いな君たち」

俺の銃口は声にすぐ向けられる。
が、その発信源であるはずの姿は俺の目には移らない。
驚きをすぐに隠し、ある事に気づく。
俺は言葉を返す。

「この状況で話し掛ける手前も相当だよ」

姿を探しつつもUGのラインから【音声送信】を選択。
バックアップの補助情報を作れないかと、ナーガにそれをオンラインで送信させる。
その間にも俺は無駄な相手への返事は続く。

「そこにころがってる死体の中に、お前さんの仲間も居たんだが」
「別に良い。気には成らないし、こんな奴にする必要も無いだろう」

相手の言葉と、微かな気配に反応してソウシが男の死体が転がる方向へと発砲するが、空振り。

「良い反応だ。でも俺は嘘吐きだから、信用しないほうがいい」
「それは貴様の存在か?それともその声か?」

ソウシの核心を付く声を、笑い声が包む。

「ははっ、解かっているのか。良いね、君ら」
「そう言った露骨な使い方で墓穴を掘ってるんだよ、音幻師」

ディスプレイにナーガからの答えが届く。
そこには短く《範囲外》との文字。
くそ、データがねえのか。
今日は悪夢を二個続けてみられるなんて、なんて幸運なんだろう!
肉を焼く電磁の次は、脳を混乱させる音波かい?
二本立てロードショウのチケットを買った覚えはないけどな。
今分かっている情報を上げるとすれば、俺達が声だけで立ち会っている敵の正体はwichの中でも少数の存在の"振動"を使役する音幻師だという事だ。
音だけなら厄介なものでもない、と思うだろうが厄介だ。
例えば声であれば、空気の振動で音を伝えているのだから声はそいつ。
だが、空気の振動自体を奴は操っているため、俺達には発信源がまるっきり違う様に聞こえ、特定出来ないと言う厄介な能力。
さらにその主武器となるのは生物の存在に絶対不可欠な気体。
弾切れなし、姿が見えない限り、打つ手無し。
俺は時間を稼ぐ為、また無駄な言葉を紡ぐ事にする。

「手前の手札は消えた、大人しく投降したほうが老後も安心だと思うがな」
「手札?この死体達が?」

稼ぐ間にソウシは場所を移動。
潜む音幻師の居場所を特定しようと、行動と同時に俺の録音情報も加え、マグクロスレンズの情報で位置検索をかける。

「要望もこの時点で叶えるのは無理、と言うか、さっき信号を出したから警邏の部隊が数分で踏み込んでくる。将来への希望を望むなら手を挙げて出てこい」
「ははは、君は何を言っているんだ?」

位置を特定したソウシからの信号がUGに映し出される。

「手前は終わりだって優しい俺の解説だよ!!!」

俺はその情報を瞬時に読み、弾奏を炸裂系に交換。
二つの銃口を向け発砲。
同時にソウシがずれた位置から”蓁鬼楼しんきろう”の大口径を発砲する。
続いて、目的地に到着した俺の銃弾が行く手を阻む純白の壁石に触れ、破裂。
拡散された一ミリほどの鉱鉄球が純白に亀裂を走らせ、壁石を削り、抉り出す。
そこに”蓁鬼楼しんきろう”の大口径炸裂弾が着弾。
俺の銃弾の五倍はいく破壊を行い、壁石自体を大きく消失させる。
開かれた空間に俺の炸裂弾とソウシの大口径炸裂弾が駆け抜け、目標となる人影に食らいつく。
いくら音幻師と言えど、この音速の銃撃を瞬時に除けきれは出来ないはず。
だが、破砕された石粉の紗幕から覗けたのは平然と立つ二人。
俺の予測はきれいに裏切られ、続いて見えたのはそれらを守るように広がっている電磁の壁だった。

「雷光師か!」

ソウシが続けて直線的に大口径を発砲。
俺も続けて全くの別方向に五発の炸裂弾を愛銃から吐き出させる。
障害物と、射角、相手の死角を考え、ソウシの単調な弾丸を囮に、兆弾を使った奇襲攻撃だった。
が、目標の前に広がる二枚の電磁の壁に焼かれる。
俺達の音速の凶弾は、雷光師の光速の鉄壁によって破砕された
その絶対防御の中から返答がくる。

「ここまでの速さで見抜いたのは、君らが最初だ」

落ち着いている返答にソウシがさらに畳み掛けるように大口径をぶち込むが、前で壁に当たり衝突、消失。

「最初って事は光栄だな、戦闘は常連か?それとも今日が始めて?」
「どちらかと常連かね。今日が初めての戦闘で“今まで負けた事がない”なんてしょぼいことは言わない」

ソウシが横目で“言葉遊びは十分”と言ってくるが、さりげなく無視。
舌打ちし、ソウシは弾奏を入れ替える。

「じゃあ今日が初めての敗北って事か。良かったじゃねーか、初体験」
「御誘いはうれしいけどお断りするよ。敗北は君らだ。そしてそれは死を意味する」
「うざったい言葉はここまでだ。始めるぞ」

ソウシがそう言ったと同時に音幻師の爆音の銃弾が飛びこみ、それを迎え撃つようにソウシの大口径が飛翔。
二つの音速は上空で衝突し火花を上げるが、同時に停止。
大口径はひしゃげて床に落下し、音弾は圧力を消失。
俺は音弾を避けるために移動を開始。
瞬間に先ほどまで壁にしていたデスクが爆音と共に一点に押しつぶされ、瞬間全体に見えない重圧がかかり、崩壊。
その上に乗っていた実験機具のような物も、音を立てて床に落ちる。
走りつづける俺を追うように次々と俺の後ろに音弾の嵐。
通路の硝子が、コンクリートの壁が次々と砕け散り、白地にひびを入れる。
気体だからといってなめていては死ぬ。
だが、いつまでも逃げつづけるのは苦手なので、応戦。
すでに切れていた炸裂弾の弾奏を高速徹甲弾の弾奏に入れ替え、駿速で装填。
二つの銃口を向け、一気に発砲。当然のように着弾音が聞こえない。
糞ったれ、と悪態を吐きながら、通路に逃げ込む。
炸裂弾と大口径炸裂弾で破砕した壁だ。
さすがに音弾も貫通はできない。

『雷光師が邪魔だ』

わかりきった事を体内通信でソウシが送ってきた。

「だが攻撃には参加してこない。それが幸いと言うか、なんつーか」
『防御のみではないのは分かっている。それが出来ないのは防御壁のせいか?』

確かに、その意見には同感だった。先ほどから雷光師は防御壁のみ精製しつづけている。

「俺達が見える所、つまり攻撃してくる所では防御壁が要る。攻撃は音幻師に任せる」
『隙はないな、そこらのチンピラではないか』
「じゃあ、そうでない時は…」
『防御の必要はない、雷撃が…』


轟っ!!!!


その声で瞬間的に体を反らし凶襲してきた雷光の凶弾を回避するが、左腕を焼かれた。
畜生め、完全に中、遠距離戦の連携が完成してやがる。
これでは、今まで負けた事がないと言うのも嘘ではないだろう。
このまま逃げ回っての攻防であれば、負けは確実。
突入してくるであろう警邏の標準装備はほぼ遠距離用なので援軍にも期待は出来ない。
このままでは確実に全滅する。
雷撃で開けられた穴を利用して反撃するが、壁の精製が間に合ったらしく、現れた雷壁に銃弾はきれいに消失する。
逃げながら思考を回転させる。
考えろ、考えるんだ、ゼト・ファルボナー。
相手の特性は中、遠距離の完璧な連携。
近距離は不明だ。
だが雷光師が要るので場合によれば近距離も難しい。
見た所、奴の壁は全方位ではないらしい。
精製時間も完璧に洗練された殲滅者ではない。
穴はある。
完璧など、人には不可能なのだ。
思考を使え、発想を使え、残されている“穴”を探せ、探せ、探せ!!
全方位。
精製時間の遅さ。
音幻師の限界。
現在地。
現在の状況。
バックアップ。
残弾。
アホの使い道。

すべての条件をひねり出し、使える条件だけを残す脳髄の高速作業。
糞ったれ、見つけた!!!!

「お前は使えるか?」

ソウシに言葉を渡すが、意味を受け取れきれていないのか返答がない。

「式だよ!」
『案でも出来たか』

ようやく帰ってきた言葉に、UGのワード機能を起動させながら返答する。

「速さしか方法が無い。俺が後ろ、お前が前。全方位でないそこの隙を突く」
『音幻師はどうする?』

ワード起動完了。
高速でメッセージを入力。
完成まで少しかかるか?

「知るか。それよりも厄介なのは雷光師だ。お前が殺れ、音幻師は俺が殺る」
『雷光師に接近戦。なるべく動かさねば死ぬな』
「あれ?それって今年のお前の目標じゃなかったっけ?」
『今年は“上手にゼトを殺そう”だ。それともこの目標を自発的に実現してくれるのか?』

後少し、並列してメールウィンドウを起動。
完了。

「あー、俺は未来設計がすでに有るから。パス」

完成。
送信先固定。
添付開始。
完了。

『貴様の死が見られないとは、あれは私の安眠に効くのだが』
「俺の死が安眠に効くとは初耳。ついでに言っとけば手前の死は、俺の安眠によく効くぜ音幻師!!」

各チャンネル、設定完了!


「今夜は美しい夢が見れるいい機会だ。嫌がらずに見て行けよ、おふたりさん」


送信!!













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