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“ここにいる俺は私であると誰が決めるのだろうか?”
“ここにある物を「これだ」、と決め付けられるその決定権は何処にあるのだろうか?”
“それが空想で、妄想であると誰が答えられるのか。”
“それが現実で、真実であると誰が答えられるのか。”
“今ここにある瞬間を証明できるものは、いるのだろうか?”
“今ここにいる自分を証明できるものは、いるのだろうか?”
“それは救いなのか?”
“それは呪いなのか?”
“それは願いなのか?”
“それは なのか?”
“私はその答えを探しつづけようとするのか?”
「救いも、呪いも、答えも、ましてや願いなどは、無い」
声がする。
すべてが薄暗い部屋にその声はあった。
すべての窓にブラインドが張られ、ここでは貴重とも言える光を拒絶する部屋。
そこに男がいた。
部屋にかろうじて残されたのは緊急用の補助発光板の薄すぎる光。
その中で男は古ぼけた本を読んでいる。
この部屋で一番光がある所、発光板の壁がすぐ横のテーブルに腰掛け、優雅とも言える姿勢で。
光はなかった。
始まったのは音から。
しかし男はそれにも気づかない。
いや、気づこうともしないのか。
「まった、つまらないものをお読みで」
別の声がとんだ。
男の前で避けるように弾け飛ぶ。
「………ソラムか」
「おはやいご帰還ってやつさ。今まででは、最高かな」
男は本にしおりを挟み、勢いよく閉じる。
埃が舞う。
「どうだった?」
男の問い。
「真暦2001年。クロウバンストフル=エヴァーゲンスによる『狭間の証明における考察』ですか」
声の答え。
「ただの言葉遊びに過ぎない」
「人間って、無駄なことに力入れすぎ」
「求めるものなのだろう、完璧になれる人間などは存在しないはずなのだが」
「でも居るじゃん」
「「ここに」」
男はその言葉に一瞬眉をひそめる、が、口調を静めて声にたずねる。
「貴様の僕は散ったのか」
「「「終末の世界で真(マコト)の物語を読む必要があるの?」」」
かみ合わない言葉質は置き去りに。
男はてにもつ本をテーブルへ置く。
大袈裟なほどゆっくりとした動作で置く。
「ここは気分が悪くなるぜ」
声が不機嫌に言う。
「落ち着く事だ、ソラム。いや、慣れるほうが良いか」
男は返す。
「「「「暗いよ、ここ?」」」」
「「「「「いらいらする」」」」」
「「「とても耐え切れないわ」」」
「「気分が、重いですよ」」
声は多重に。
音は多重に。
影は多重に。
薄暗い部屋を満たしていく。
「・・・そこまでのものか?それとも小物か?」
男が言葉達を斬るように問う。
声は答えた。
一つの音で。
「「「「「「計画に」」」」」」
「上出来だ」
男は声に満足そうに答えた。
それに一重に重なった声が返す。
「「「「「「あいつらはうまくいくのか」」」」」」
「分からんな、今はベルザに居るだろう」
「「「「「「あいつらで旨く作用できるだろうか?」」」」」」
「誘導は、すでに始まっている」
「「「「「「順調すぎるな」」」」」」
「そうだな、私はそれしか出来ない」
「「「「「「貴殿はすべてが完璧だな」」」」」」
「ああ」
声は低い一定の音を出す。
「さすがはイラムだ」
男は答えた。
「ああ、それしか出来ないがな」
そして本を手に取る。
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